『夢現無双』のこと

 

9月になりました。

寂しさを埋めるべくコツコツとブログを更新したいと思います。

今回はこちら!

 

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2019年『夢現無双〜吉川英治原作「宮本武蔵」より』

作・演出 齋藤吉正

 

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【群雄割拠の戦国時代。作州宮本村の新免武蔵(たけぞう)(珠城りょう)は幼い頃から負けん気が強く、それ故に災いを招きがちな青年だった。

見かねた沢庵和尚は「己の心の弱さに打ち克って真の強さを手に入れよ」とたけぞうを放逐、名を《宮本武蔵》と改めさせ以降三年故郷への出入りを禁じた。

幼なじみのお通(美園さくら)は武蔵への淡い想いを胸に秘め、涙ながらに見送るのであった…。

武者修行の旅に出た武蔵は遂に永遠のライバル・佐々木小次郎(美弥るりか)と出会う。小次郎は武蔵の亡父・新免無二斉が唯一認めた男。冷徹な父から受けた非道な仕打ちを忘れられぬ武蔵にとって、まさに小次郎はどうしても斃さねばならぬ相手であった。

数々の名剣士との出会い、お通との浅からぬ縁、亡父の呪縛、お通と共に三人仲良く育った幼なじみ又八(月城かなと)との友情…武蔵は人と触れ合い己と向き合ううちに「真の強さ」の意味を知るようになる。

そして、最後に立ちはだかる敵・佐々木小次郎を討ち果たすべく、運命の地・巌流島へと向かうのだった。

武蔵が夢見た、夢現の彼方に待つものとは…】

 

 

 

あのね。あらすじ書いてるとすごいいい作品に思えてくるんですよ。

ただね、いかんせん『夢現無双』は慌ただしかった!(笑)

 

 

稀代の立役・珠城りょう、天下の妖艶・美弥るりかの2人に[宮本武蔵佐々木小次郎]を充てるのは大正解。初々しいヒロイン美園さくらにはいじらしいお通を、これも正解。

題材の良さとキャストの嵌りっぷりがこの作品の最大のポイントですが、脚本が芳しくなかったのと強引なストーリー展開への理解が難しく、作品全体の評価は正直いまひとつでしたね。

 


ですがこの作品、月組ファン的に撮れ高だけは異常に高い公演だったんです!!もうね、ずっとオペラ握ってましたよ私は!だって3分に1回は見どころがあるんだもん!!

ヅカヲタがちょろいのはこういうところですよね…堪忍堪忍…。

まぁ、駄作って言われると何も言い返せないんですけど、宝塚のトップスターは駄作を妙作にするのがお仕事なので、その点で珠城さんの仕事ぶりは評価できると思います。

 

 

 

 


ヨシマサは(呼び捨て)ヒーローに対する憧れが強いんですよね。しかも宝塚ファンの多くが求める少女漫画の王子様タイプとは真逆の、男の子が憧れるド直球なヒーロー。

めっぽう強くて、無頓着で痛快で、女に振り回されないカッコ良さがあって、何故かそれが女の目には愛嬌に映るような男。

この時代にそんなこと言って憚らないのがヨシマサです。「はァ?!」ですよね、分かります。分かりますよ…。

でもここはぐっと堪えてこの時代錯誤なヒーロー像に乗っかりましょう。

 

 

兎にも角にもヨシマサが描くムンムンと漢くさーい宮本武蔵というキャラクター。ハッキリ言ってこれができるのは珠城りょうを置いて他に誰もいません。

剣豪という点ではダルタニアンと似てそうですが、ダルタニアンはピレネー山脈から吹く爽やかな風の匂いと陽だまりの優しさを兼ね備えた人。しかもあれはDINKS夫婦が演じるおとぎ話でしたので、武蔵はまた全然違うんですよね。

向こうがディズニーアニメだとしたらこちらは劇画タッチの青年漫画

 

 

 

 


身も蓋もない言い方ですけど、なんかこう、武蔵さん見てるとウズウズするんですよね(照)。

自分の中の女が疼いてちょっとどうにかしたくなるような、でも絶対どうにかなってくれない感じの野暮な男、武蔵。

 

名花魁の吉野太夫にはんなりと男女の勝負の話を説かれてひとつもピンと来ない朴念仁で、お通さんの必死の懇願を心では受け止めても決して返してはくれない人。もどかしい!もどかしいよ珠城さん!!(珠城さんではない)

けどこのもどかしさが武蔵の武蔵たるところなんですよねぇ。

小茶ちゃんにまで世話を焼かれるし、そうそう、朱美ちゃんに拾った鈴をあげちゃう辺りも良かったですねぇ。すぐ寝ちゃうし、寝顔見たいのに飛び起きちゃうし。あー、武蔵さん可愛いったらもう(笑)

 

 

 

武蔵好きな人、みんな下総の髭武蔵が大好きじゃないですか(※私調べ)。

当然私も髭武蔵大好きです。もはやあの場面のために毎回9500円払ってた。後は全部オプションです。お得か。

 

いやだってよく考えてください?

どこの世に無精髭生やして手ぬぐい首からぶら下げて鍬持って畑耕してるだけであんなにかっこいい存在あります??てか、宝塚ですよ??トップスターですよ???

 

しかもね、それがどうにも色っぽい。

 

武蔵さん見てるとウズウズするって先程述べましたが、正直に申しましょう。髭武蔵さんは見てるとムラムラするんです!!!!

 


菩薩を彫る手も鍬を握る腕もどこかそぞろで、世捨て人みたいな顔してるくせに何か未練を残した風情がありありで。たまんないっすよね、そんな男。

思いっきり罵倒してカッとさせて押し倒されてやろうかと思うじゃないですか(引かないで)。でもきっと武蔵さんは押し倒しても何もしてくれない……そこがいいの……抱いて……(引くわ)。

 

 

 

閑話休題

 


珠城さん好きな人って痛めつけられてる珠城さん大好きじゃないですか(※個人の感想です)。

『グランドホテル』のブログに「珠城さんは死の影が付き纏う役が似合う」と記しましたが、あの頑丈な健康体が痛めつけられる姿は嗜虐心をくすぐられるというか、傷ついた姿が逆に生命の強さを際立たせる所もあって、平たく言えばそそられる訳です。(ああ、どうしても夢幻無双の感想はこっち方面に流れてしまう…)

今ちょうどスカステでバンディート見てるんですけど、銃で撃たれて腹から血を流してるジュリアーノもこの系譜ですよね。そそるわ〜手負いの珠城りょうさん(笑)

 

話を武蔵にもどします。


残党狩りに追われて頭突きかまして逃げる武蔵、千年杉に縛りつけられてる武蔵、吉岡道場を訪ねてコテンパンに殴打される武蔵、撃たれた脇腹の痛みを堪えながら歩いてる武蔵…。どれも痛々しさが色っぽくてオペラで必死に見てました(笑)

 

 

やられる武蔵もいいけど、強い武蔵も魅力的。特に小雪舞う中での七十人斬りの立ち回りの場は圧巻でした。目線ひとつで相手を圧倒する殺気…!

クライマックス、巌流島の一騎打ちも手に汗握る刹那でしたね。せっかくの見せ場があっという間すぎたという声もありますが、タンゴ踊る訳にはいきませんからねぇ(それは同じヨシマサの『巌流』あれはあれでシュールでした)。

 


るりさん演じる小次郎もまた良くて。

小次郎は心のどこかで自分の力を封じてくれる存在を待っていたように思えたんですよね。上り詰めるのは孤独なことで、その孤独を埋めてくれるのは、やはり同じ頂を目指す者しかいない。

好敵手とは良き友であり、時に一蓮托生の恋人のようなもの…。るりたま…。

 

 

 

最後にこの作品のモヤモヤポイント「お通さん可哀想すぎる問題」について。

甘い言葉のひとつもなくて、しのぶ想いは全て心の声。追いかけても追いかけてもすり抜けてしまう面影をただただ涙で見送るヒロイン。これがお披露目なのに…という声もありましたね。

 


私はお通を可哀想なだけのヒロインとは思いません。

そりゃあ気持ちが通じ合うハッピーエンドなら誰から見たってご満足、安心して幕が降ろせるってもんです。

でもね、手に入らなければいつまでも追いかけていられるんですよ。

 


「消えないでおくれ、いつまでもいつまでも…」

 


『同じ星空の下で』サヨナラショーでも歌われたこのデュエット。不器用な武蔵とお通が同じ星を眺めながら相手を想う大好きな歌です。

珠城さんとさくらちゃんの声って重なりがとても綺麗なんですよね。

 


その腕に抱きとめるより、たとえ離れても心ひとつに。

 

 

「たけぞうさんっ!」

「お通、達者でなーー!!」

 


傍から見てたら「さっさと別の男探しなよ」って言いたくなるところですが(笑)もうあの笑顔見てたら何も言えないよね。

悔しいけど、やっぱりままにならない存在ほど狂おしく求めたくなるんですよ。

武蔵が無双の彼方に真の強さを求めるのと同じように、お通もまた見果てぬ夢を追い求める。

あの二人はよく似てるんです。

…たまさくにピッタリじゃないですか!

 

原作ではその辺のモヤモヤも上手いこと回収してくれているようなので、ゆっくり読み進めて脳内上演をしたいと思います。

 

この公演は本当に色々な事がありました。相手役が変わって初めての大劇場公演、珠城さんにとって大切な存在であり絶大な人気を誇るスターるりさんの退団、れいこちゃんの休演、ご本人も東京公演中にトラブルでお怪我をされ、休演こそしなかったものの振付や演出の変更もあり、多くの困難をくぐり抜ける武蔵さながらの大変な公演であったと思います。

後に退団発表の記者会見で、この公演が終わる頃「背負ってきたものを少しずつ降ろしていっていいのかなと思えるようになった」と涙で頬を濡らしながら語っていらっしゃったのも記憶に新しいところ。

思い返せば東京公演の千秋楽、珠城さん珍しく声を震わせて「私達を信じて(トラブルにも動じず)見守ってくれたのが嬉しかった」と仰ったんですよね。

 


歴史ある劇団で興行の中心となって座を回すことのプレッシャーはいかばかりか、珠城さんにとっても、共に戦ってきたファンにとっても決して忘れられない公演のひとつとなりました。

 

 

さて、セクシー武蔵にクラクラした後は、合法なお薬でクラクラしましょう(笑)

《次回》タイってどゆこと!?「クルンテープ」のこと。長文不可避です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エリザベート』のこと《後編》

 

前記事はこちら

https://acco11.hatenablog.com/entry/2021/08/27/235941

 

さてでは後編行きましょう!長文だよ!

 

 

2018年『エリザベート』《後編》

 


珠城さんの舞台を観に行くといつも楽しかったとかいう次元を超えて

 


「今日も愛されたな…」

 


オキシトシンドバドバになって帰路につくのですが、それにしても『エリザベート』の愛された感はべらぼうでした。

 

 

 

珠城トートを見ていると2つの熟語が頭に浮かんできます。


一つ目は『悪童』。

シシィをどんな目に遭わせて人生に幻滅させてやろうかと、まるでチェスの駒でも選んでいるように愉しげに事を進めるトートの表情豊かなこと!

企む、哄笑する、ほくそ笑む、悔しげに歯ぎしりする。どのトートも悪童の如く自在でした。

市井に紛れこんでルキーニと結託するカフェの場面や民衆を煽動するミルクの場面。人々は気づかないままにトートに操られ、操る側のトートはあくまでエゴイスティックに人々の運命を翻弄する…。

なるほど『死』というのはこうして日常に潜んでは人心を掻き乱しているのねと思わせる、目の離せない存在でした。

 


二つ目は『豊穣』。

これはもう珠城さん本人から連想されるワードなのかもしれませんが(笑)、珠城トートは残忍な面を見せたかと思えば時としてまるで菩薩様のようななよやかさを感じさせもするのです。

豊かな実りを思わせる安心感。

たっぷりとふくよかで極楽浄土に誘われるかのような抗い難い誘惑…!

限界まで眠くなった時に目の前にフカフカのベッドがあったら飛び込まずにおられようか!?ってことですよ!(え)

執務室での甘い囁き、ドクトル・ゼーブルガーからの変身(魅惑のシャツイチ)、ルドルフに忍び寄る「闇が広がる」は特に残忍さと誘惑のせめぎ合いが凄かった。

 

 

 

「人生とは重い荷を背負って長き坂道をゆくが如し」な我々にとって「死」は行き着く先なのか転げ落ちる所なのか、どっちにしてもここはどうあっても美しくなければならない。この作品は1にも2にも死が魅力的でなければお話にならない訳です。

その点で珠城さんのトートは完全に圧勝でした。

エリザベート』は100人見たら100個正解があるような作品なので、珠城りょうファンの私は敢えて断言させていただきます。誰がなんと言おうと、珠城りょうのトートは大正解でした。

 

 

 

珠城さんのトートを語る上で外せないナンバーが2幕「愛と死の輪舞曲〜リプライズ」です。

あれだけ揺さぶり続け最愛の息子を奪ってまでも欲しかった彼女の魂。全てに絶望してようやく身を投げ出したシシィに手をかけようとしたその瞬間、トートは気づきます、この女は「まだ私を愛してはいない」と。

 


トートはエリザベートの何を求め何を愛したのか。作品中最も難しい矛盾点です。

「愛と死の輪舞曲〜リプライズ」でこれ程までにトートの内面の葛藤を表現したのは18年月組バージョンが初めてだったように思います。

諦観、虚無。そのように表現するトートも良かったですが、こと今回バージョンのエリザにはこのトートの葛藤が不可欠でした。

 


このブログはずっと珠城さんにフォーカスしてお送りしていますが、語るまでもなく舞台は総合芸術であり、役者同士のぶつかり合いによる火花こそが月組芝居の醍醐味だと認識しています。

 


このエリザベートも例に漏れずどのキャストも素晴らしく、特にちゃぴちゃんのシシィと美弥さんのフランツ、れいこちゃんのルキーニがとても良かった。

トートとシシィの関係性は各組によって少しずつ違うのが妙味ですが、珠城トートと愛希シシィは力関係が対等で、ぶつかりながら反発しながら共に一つの人生を光と影の如く追従していったような二人でした。

美弥さんのフランツはとても優しい人で「皇帝は自分の為に在らず」と言いながら本来の彼はシシィのように自由に生きることを望んでいたように見えたんですよね。

自由に生きられぬ皇帝が人間らしく生きた唯一の証がシシィへの愛だった。

「僕たちはひとつなんだ」と語りかける言葉が哀しく響く、素敵なフランツでした。

 


まるで天と地が一つの生命を引き合うような壮大な愛のドラマの中で「愛と死の輪舞曲〜リプライズ」のトートの葛藤が「夜のボート」のフランツの届かぬ愛に呼応し、果たしてシシィの本当の心はどこにあったのか?といよいよ2人の帝王が対峙する「最終答弁」に繋がってゆく。そしてこの流れを導く月城ルキーニのあの狂気!あー!思い出しただけで鳥肌が立つほど興奮してきました…!(どうどう)

 

 

 

 


これはゴマンとあるエリザベート論の個人的解釈と思って読み流していただけたらと思うのですが、結果的にシシィがどちらを選んだかはもう解らないと思うんですよね。

 


ただ一つ言えるのは、シシィは最期になって自分の人生の全てを受け入れたということ。

そして、受け入れた先に待っていたのは安らかな死であったということ。

 

 

 

真っ白な魂となったシシィを広く柔らかなかいなに包み込むトート。口づけた瞬間に全てを委ねて力尽きた女の魂を、優しくもたげるトートの掌の力強さ、あたたかさ。これこそが安息の瞬間とばかりに揺らめくスモークの中に消えてゆく2つのよく似たシルエット…

 


「昇天」の場面。

 


見終わるといつも「愛された」という充足感と共に「生きなければ」と強く思います。

どんな悪戯に振り落とされそうになっても、全てを投げ出して目の前の豊かな果実にかぶりつきたくなっても、自分の「生」を是として「よく生きた」と思えなければ、あの美しいトート閣下は迎え入れてくれないのだから。

 

 


18年月組のエリザ。見る前はもうお腹いっぱいだよー!と思っていた筈なのに、

エリザベート』という作品のさらなる深淵に触れられた貴重な公演となりました。

 

できることなら色んな人に18年月組エリザを、珠城さんのトートを見てほしい!きっとみんな、生きる力を貰えるはずだから…。あとフィナーレが最高だから…たまちゃぴ史上一番セクシーなデュエダンだから…!!!!腕つつーってするやつ!!!エーン語り足りない!!

 

 

 

 


という訳で小池先生、どうかよろしくお願い致します(笑)(まだ言うか)

 

 

《次回》私は好きだよ!『夢現無双』について

 

おっ楽しみに〜〜〜!!

 

『エリザベート』のこと《前編》

 

 

大作に対して私の筆力が追いつかず、とりあえず《前編》《後編》に分けました。

ちょっとライトな前編、ディープに語る後編って感じになったと思います。前フリはこの辺にしてさっさと行きましょう(笑)

 

という訳で今回はこちら

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2018年『エリザベート

潤色・演出 小池修一郎

 

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【1898年ハプスブルク帝国の皇后エリザベートが外遊先のスイスで暗殺された。犯人は無政府主義者ルイジ・ルキーニ。刑務所の独房内で自殺を図り現世でその目的は闇に葬られたが、煉獄の裁判所ではルキーニへの尋問が続いていた。

何故彼はエリザベートを殺したのか…

裁判官に促されたルキーニは霊廟からエリザベートと共に生きた人々を証人として甦らせ、遂には黄泉の国を司る死神トートをも召喚させると、驚くべき真実を語り出す。皇后殺害の動機は「グランド・アモーレ、偉大なる愛だ」と…。

シシィの愛称で親しまれた皇后エリザベート(愛希れいか)の数奇な人生を、黄泉の帝王トート(珠城りょう)との不思議な因果に基づいて辿ってゆくウィーン・ミュージカルの最高峰。1996年の日本初演から愛され続けた名作を宝塚歌劇団として記念すべき10回目の再演作品として上演。】

 

 

 

元々好きだなと思っていた珠城さんに青柳さん/BADDYから本格的にドボンして迎えた公演があの『エリザベート』。私のテンションは…

 

 

 

上がりませんでした(爆)

 

 

 

いや、エリザは名作だしちゃぴの最後に相応しいのもわかる!ロミジュリの『死』もかっこよかったし珠城さんのトートもなんとなく想像はつく!

でも、正直あの健康な美丈夫がウリのトップ4作目の男盛り(?)の珠城りょうにトートはちょっと…モニョモニョ、と、まぁぶっちゃけ観るまではそう思ってました。

16年宙組のエリザが私の中でベストアクトだったのもあるかな。因みに私ヅカヲタ歴だけは長いのでエリザは初演から観ていて、一番好きな解釈は水となの雪エリザです。自己紹介。

 

 

 

それでも満を持して、仕事のタイミングも折りよく久方ぶりの遠征で宝塚大劇場まで見に行きましたよ『エリザベート』。

結果、若く美しく逞しい黄泉の帝王にメロメロの骨抜きになって帰ってきました(笑)チョロ〜

 


もうあちこちで言われてるので今更ですが、珠城さんて「男でもあり女でもある」タイプのひとじゃないですか。ワイルドな青年とグラマラスな美女が一つの身体に同居したような人で、男性性も女性性もモリモリ。え??生物として完璧なのでは???

そんな珠城さんが演じるトート、何故似合わないと思ったのか私は!!!むしろぴったりじゃないか!!!

小池先生は珠城さんに「麻路トート以来のダイナミックなトート像」を見出したようですが、ただパワフルなだけじゃない、大胆かつ甘美、蠱惑的なトートでした。(マリコさんのトートも優美でセクシーなトートで大好きでした!)

 

 

 

シンプルにトートの珠城さん、すっごい綺麗なんですよ。

お披露目の頃と比べて少しお顔がほっそりとされたせいか元々丸く目立っていた頬骨も西洋的な美貌に変換され、印象的なアーモンド・アイと美しい鼻梁に何よりあの陶器のようなツヤツヤ美肌!青ざめたトートのメイクがよく映えて、制作発表時には賛否あった(笑)グリーンとパープルの混ざった髪型も実際見ると長身な珠城さんにお似合いで衣装とのマッチングも良くとても綺麗でした。

 


見た目の事ばっかり言うのもアレですが、何はなくともトートは美貌がなくては成立しない訳で、珠城さんはご自身のお顔立ちと奇跡のプロポーションをフルに活かした最高のトート像を作り上げたと言っていいと思います。

顔が綺麗で体格のいいトート、絶品でしたねぇ(じゅるり)。

 

 

 

そもそもトートって「中性的なアンドロギュヌスのような神」と造形されてますよね。ウィーン版ではデヴィッド・ボウイのようなロックスターがイメージだったとか。

宝塚版は男役が演じるのだからその辺は専売特許、東宝版は男性の体躯を活かしたセクシーなトートが次々登場しています。で、私はそろそろ東宝版エリザに男役のトートが出てこないかな?と待ってるんです。

 

 

 

そして、今それが出来るのは珠城りょう以外に居ないと思うんですよ。わー!言っちゃったよ!!殺される!!!←

 


だってまだ珠城さん若いし、あのトートなら宝塚の枠を飛び出しても絶対いけます。それほどに珠城りょうのトートは美しかった!

だって男の色気も女の色気もモリモリ全部盛りのトートですよ?しかも均整の取れたボディにあの真ん中オーラですよ?きっと引けを取らないと思うんです。それに何より新しい『エリザベート』が生まれそうな気がしませんか?ね??

るろ剣もポーもあったんだから、そろそろいいんじゃないかと思うんですけどね?怒られますかね(笑)

 

 

 

前編は珠城ボディについて褒めちぎって言い逃げして終わろうと思います(笑)

 

《後編》は落ち着いて作品の内面的な部分を振り返りたいと思いますので、よろしくお付き合いくださいませ〜

 

続けて直ぐに投稿します🙇‍♂️

 

『BADDY』のこと

 

珠城さん再スタートを記念して今回はこちら。

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2018年『BADDY〜悪党(ヤツ)は月からやってくる』

作・演出 上田久美子

 


【ここはピースフルプラネット地球の首都・TAKARAZUKA CITY。建国以来103年間犯罪の起きない平和な世界である。それもそのはず、この国では些細な口喧嘩も飲酒も喫煙もダメ絶対!

今日も平和に一日が終わると思われたその時、唸るような地響きが地球を襲う。月に潜伏していたはずの大悪党BADDY(珠城りょう)が、仲間を引連れ地球に上陸したのである!宇宙服を脱ぎ捨てるなりタバコをふかし、男か女か分からない恋人・スィートハート(美弥るりか)と公然とイチャつくなど、BADDYはやりたい放題。

地球の平和を守る捜査官グッディ(愛希れいか)と、彼女を慕う同ポッキー(月城かなと)は、早速彼らの取り締まりに躍起になる。

平和な世界を脅かす大悪党…。善と悪の壮大な追いかけっこが今ここに始まった】

 


はい。これ宝塚のショーの説明です。

今作は『ノバ・ボサ・ノバ』のようにショーの形式を踏襲しつつストーリー仕立てで進行する作品でありました。

この作品は上辺だけ見てもすごく面白い。おもちゃ箱から飛び出してきたようなキャラクターに荒唐無稽なストーリー、お子様人気が異様に高いのも頷けます。

 


この作品を見て「なんだか賑やかで楽しかったわ」だけで済ませられる人はある意味とても幸せな人だと思います。

BADDYはルビンの壺の如く、見る人によって全く見え方が異なる作品だと言えるでしょう。

だいたいね、BADDYが刺さるようなのはね、教室の片隅で太宰治とか読んでたタイプの人間なんですよ。私のことです。

そして珠城りょうが刺さるのもこのタイプが多いと思うんですよね。快晴よりも曇天に息がしやすくて泥水啜りながら砂噛んで人生渡ってきたタイプの人間にとって珠城りょうは眩しすぎるんですよ!!私のことだよ!!!

 

 

 

…涙が出てきそうなので話を変えましょう。

 


私、公演タイトルの冠が好きなんです。「宝塚グランドロマン ベルサイユのばら」とか「ロマントラジック 桜嵐記」とか。BADDYの冠は「ショー・テント・タカラヅカ BADDY〜悪党(ヤツ)は月からやってくる」。

ショー・テント・タカラヅカ。痺れます。アングラ演劇やサーカスを彷彿とさせる、粗暴で優雅な野趣あふれる冠です。

 


粗暴で優雅。

これぞまさに珠城さんのBADDYそのもの。

 


作品について語り出したらもうキリがないので(笑)ここではその「粗暴で優雅」をテーマに「BADDY覚醒〜ビックシアターバンク襲撃」をクローズアップしていきたいと思います!

「悪いことがしたい/いい子でいたい」

良い子の白チームと悪い子の黒チームが泥水啜ってきたオタクにグッサグサに刺さるキラーワードをこれでもかと交互に繰り返し、入り交じり、中詰めは一種のトランス状態に。そして最高潮に達した所で唐突に短い会話場面を挟みます。

 

 

 

【BADDYはグッディにうつつを抜かすうちに本来の悪の道を外れつつあることを恋人のスィートハートに指摘され、これではダメだと自分に相応しい大きな悪事はないかと考え直す。

[ビックシアターバンクを襲撃し、地球の惑星予算をそのまま奪い取る…]

思いつきに確信を得たBADDYは俺こそが宇宙一の悪党と高らかに謳い上げ、自らを奮い立たせビックシアターバンクに向かうのだった】

 

 

 

トランス状態から一度カームダウンした客席の空気をたった一人でマックスボルテージまで引き上げる珠城りょう、めちゃくちゃかっこよかった…!

まるで劇場全体が急上昇するジェット機になったみたいで、BADDYの巻き起こす大気流に耐えながら歯を食いしばって手拍子をしていました(※観劇)。

一人の人間が出すエネルギーがこんなにも場を支配することがあるのかと、飛び散る汗すら神がかって見えたものです。いやぁ、あれはすごかった。

 

 

 

場面は一転ビックシアターバンクの舞踏会へ。

正しき国の繁栄を祝う禍々しいダンスパーティー。そこへ黒燕尾を身につけ黒髪をオールバックに撫でつけながら咥えタバコで颯爽と現れる正装のBADDY!!!

 


ここの早替わり、58秒。

 


あれだけのエネルギーをぶち放っておきながらBADDY様、わずか58秒後に余裕綽々の佇まいで銀橋に再登場です。惚れないわけがない…

この時の燕尾のかっこよさを語るためにツラツラと文章を綴ってきた訳ですが、あれぞ「粗暴で優雅」珠城りょうの男らしさの真骨頂だと思います。

 


言うまでもなく黒燕尾は男役の正装です。でもことBADDYの黒燕尾に関しては男役が着るそれとは全く違う、まるでリアルな男の人が着こなすような黒燕尾なのです。

珠城さんの肉体美はもはや周知のことと思いますが、単に肩幅があるとか胸板が厚いとかそんなことじゃないんです。

実際恵まれすぎた奇跡の体型ですけど(笑)あの肉体には彼の信念みたいなものが詰まってるんじゃないかと思うんです。

 


体の奥の野蛮さを慎み深い正装スタイルに押し包み、粗暴な優雅を撒き散らしながらダンスフロアに溶け込んでゆくBADDYのなんとセクシーだったことか…ほんの1時間前まで無理矢理バーレッスンやらされてた人なのに…()

悪人は、もの哀しい。

 


いい子でいれば安全な場所で暮らしていけるのに、なぜ悪人は好き好んで激流を遡るような生き方を選ぶのか。

 


「俺はやりかけた悪事は最後まで貫くんだよ…!」

BADDYのこの言葉を聞くといつも胸が締め付けられるように熱くなります。

周りに迎合することを否定し続け、茨の道をゆく愚かなBADDY。手負いの獣のような美しいBADDY。

(ちなみにこの言葉、家族に内緒で観劇に行く朝には必ず心に刻んでいます。)

 

 

 

珠城さんってスマートじゃないのが魅力なのかなって思います。少なくとも久美子先生はそこに珠城さんの魅力を見出した人なのでしょう。

 


先日友人が「珠城さんの演じるBADDYにはどこか古い時代の銀幕スターのようなダイナミックな風格がある」と話していました。

当時のスターはスターとしての生き方を貫いていましたよね。映画のギャラを一晩で銀座のクラブに撒き散らしたとか、付き人ぶん殴って入院させたとか(笑)

「BADDY」と自分の名前が飾りつけられたジャケットを着たBADDYの後ろ姿には、ちみちみしたところを見せたくないスターの意地にも似た哀愁が漂っているんですよ。豪放磊落でありながらどうしようもなく孤独で、愚かだけど最高にカッコイイ愛すべき悪党!

私はこの作品を東京宝塚劇場で観ました。幸いチケットも複数押さえ見られる日を探して必死に追いかけました。

とても幸運だったと思いますが、出来ることならこれを宝塚大劇場で観たかった…!

武庫川のほとりのあの朗らかな娯楽の殿堂で大暴れするBADDYは、東京で観るよりもっともっと魅力的に映ったかもしれない。

 

「天国なんてバアさん達が行く場所さ」

 

サングラス姿でそう言って客席をくさすBADDYを、宝塚大劇場の常連さんはどう思ったのだろう。眉を顰めただろうか?

いいえ、きっと私が客席に居たら、誰も渡ることのできない激流に悠々と飛び込んでゆく男の、粗暴で優雅な姿に陶然と胸を熱くした事でしょう。

叶うことなら今からBADDYを知らない体(?

)になって宝塚大劇場でBADDYに出会いたいなぁ〜!!

 

《次回》似合わないって誰が言った!!!「エリザベート〜愛と死の輪舞曲」

 

どうぞお付き合いくださいませ!

補足・カンパニー 青柳さんのこと

 

前記事でカンパニーを語るつもりが石田昌也へのクソデカ感情をぶつけてしまい珠城さんへの言及が足りなかったな…と反省しました。

 

前回記事はこちら

『カンパニーのこと』 - acco11’s diary

 

珠城さんのご卒業翌日に青柳さんかいっ!というツッコミは承知の上(笑)ここでは補足的に大好きな青柳さんを箇条書きで語っていきたいと思います!

 

 

 

・ヒロイン属性の青柳さん

 


なんか言い出したよ←

いやもう実質ヒロインやんあの人。素直でホワンとしてるからすぐ巻き込まれちゃうし、割と無茶な話もあっさり納得しちゃうし(主に高野さんからの圧に弱い)。

バレエカンパニーに初めて出向いて挨拶する場面が特に巻き込まれてて可愛いですね。

急に歌い出す美波と蒼太にビクッ!としながらもすぐに受け入れ態勢に入る素直な青柳さん。さちぴーに絡まれて困惑しつつも逃げない優しい青柳さん。すき。

青柳さんは「この人なら受け入れてくれそう」って感じられるんですよね💕まぁチョロそうとも言えなくもない。可愛い。

 

 

 

・絶妙なサラリーマン仕草

 


立ち方や手の組み方などかなり研究なさったと思うのですが、どれも妙にリアルなんですよね。普通のサラリーマン…でも柔道部出身の鍛えてるガチッと感もある…え…???待ってあの人かっこいいな????好き…でもめっちゃ腰低い…え…可愛い…!!!はい、ここまで来ればもう青柳さんの虜です。普通に街中でかっこいい人見つけた時の感覚なんですよね。いやあんなかっこいい人おらんけど。

 


私が特に好きな青柳さんのサラリーマン仕草は、ラストシーンでの脇坂専務とのやりとりです。

元を正せば脇坂の不興を買ってカンパニーに飛ばされたはずの青柳が、彼に向かって「感謝しています」と臆面もなく言い切る。左遷となる脇坂は最後に「お前、顔つき変わったな。前より…」と自分と入れ替えに本社に戻る青柳の内面の変化に気づき、最後の最後に「ふてぶてしくなった!」と精一杯の憎まれ口を叩いて去っていきます。

でも青柳にはそれが彼なりの敗北宣言であり自分への最大限のエールだと分かって、去りゆく脇坂の背中に深々と頭を下げるんです。このお辞儀を見ると、あー、働く人ってかっこいいなぁ、と毎回思います。

 


あとは細かいところではバーレッスン(何故かやらされる羽目に)で首にかけたタオルで汗をフキフキする青柳さんとか。あのシャツいちの胸板は至宝ですね。あっ!バレエ団の晴音・楓コンビに呼ばれて階段登ってくとこも好き!小走り青柳さん。美波さんに何度も会釈して去ってく様子がが絶対いい人。そりゃ高崎美波も軽くステップ踏むわ。

 

 


コスプレイヤー青柳さん

 


青柳さんなんたって体がいいので(堂々)何着ても映えるんですよね。

スーツ、ベスト、シャツイチ、柔道着、浴衣、タキシード…因みに私はお店でキャメルのチェスターコートを見かけると「君に出会えただ〜けで〜」が脳内に流れるように設定されています。あの主題歌めっちゃ歌うよね。いい歌なんだまたこれが(笑)

私は浴衣姿の青柳さんに堕ちて今ここでこんなブログを書くに至っています。あの場面もいいんだよなぁ〜(机に突っ伏しながら)トップコンビ2人が雑談しながら花道はけてく姿にあんなにときめくとは!!!!!

 

 

 

・青柳さんと美波さん

 


急遽代役を務める事になった美波さん。

緊張で震える美波を抱き寄せて「希望も光も全てあなたの中にある。あなたの中の希望を僕に見せてください」と力強くステージに送り出す青柳さんの全部が大好きです。シンプルに恋。

優しく包み込むような回もあれば、美波さんへの想いが溢れて思わず強く引き寄せる回もあって。そんなの見た時はオペラ構えながら心の中でキャーーーー!!!ですよ。あの青柳さんがグイッてした…!!!!

 

ハグも好きなんですけど、私がいつもオペラで夢中になって見てたのは美波を舞台監督が呼びに来るところですね。

美波が羽織ってたストールを受け取ってグッと力強く頷いて3人で走り去るんですけど、そこがかっこいいの!頼もしくて!!シンプルに恋!!!(2回目)

 


ラストシーンの「今夜は月が綺麗ですね」からの手繋ぎひゅーひゅーはもう語るまでもないでしょう。

最高にハッピーな気持ちになった30分後に、あのクレイジーなショーが待ってるとか2018年春の月組幸せすぎるな。出来ることならタイムスリップしてチケット増やしたい。

 

 

 

という訳で《次回》悪党が月からやってくるアレについてです。長くなりそう〜(笑)

 

 

 

 

『カンパニーのこと』

カンパニー好きすぎて収集つかなくなりました(笑)

長文です。

カンパニーちょっと苦手なんだよな〜って人も読んでいただけたら嬉しいです♡

 

ではこちら!参りましょう。

 

↓↓↓

 

2018年『カンパニー〜努力・情熱・そして仲間たち〜』

原作 伊吹有喜(新潮文庫)

脚色 演出 石田昌也

 

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バレエ×サラリーマン=???

 

 

 

【「君に出会えただけで幸せだった…」

 

製薬会社[有明製薬]の総務課に勤務する青柳誠二(珠城りょう)は2年前に妻を病で亡くし、伴侶を偲びながら単調な日々をやり過ごしていた。

競合他社との合併話が浮上する中で、青柳は突然出向の辞令を受ける。合併のいざこざの裏で起きたあるトラブルを庇った事がきっかけの、体裁のいい厄介払いだった。

出向先は[敷島瑞穂舞踊研究所]、有明社長の娘・紗良が在籍するバレエカンパニーである。

青柳への表向きの課題は、世界的プリンシパル高野悠(美弥るりか)を招聘しての合併記念公演『白鳥の湖』を成功させること…。

 

カンパニーには、以前青柳がスリの被害から助けた高崎美波(愛希れいか)が偶然在籍していた。専門外の仕事に四苦八苦しながら、青柳は美波をはじめ団員のほとんどがアルバイトをしながら公演をこなしている日本バレエ界の現状を知るのだった。

孤高の天才高野をはじめ曲者揃いのカンパニーで、バレエ公演成功に向けて奔走することになった青柳。青柳の止まっていた時計が、ゆっくりと動き始めた…】

 

 

私この作品大好きなんですけど、残念ながら苦手な人も多いようです。

好きだからこそなんとなくその理由は分かります(笑)なのでその辺りを絡めて回想していこうと思います!

 

 

 

まず初めに、作・演出の石田先生はとってもピュアなおじさんです(笑)どうもあのおじさん、ストレートにカッコイイのが恥ずかしいみたいで、というか、カッコイイを見出すポイントが宝塚の主なターゲット層と微妙にズレてるんですよね。

座付きとして致命傷のような気もしますが、この「微妙にズレたカッコイイ」がうまーく嵌るともう大成功なんですよね。

正塚先生もこの傾向ですが、表出がハードボイルドなのが正塚先生で浪花節なのが石田先生ってとこでしょうか(笑)

 

 

さて、翻って本作。

 

 

やはりこの作品の登場人物達も普通の「カッコイイ」からはちょっとズレた所にいます。

バレエの世界は一見華やかだけど、彼らはこのご時世にお金にならない事をひたむきにやっている不器用な人達です。

選ばれし存在の高野さんは人付き合いが苦手でいつも周りと衝突してばかりだし、カンパニーとコラボするダンスボーカルユニットのバーバリアン達も、ビジュアルこそイケてるけど那由多くんは実は泥臭い努力家で。

 

そして、その最たるのがトップスター珠城りょうが演じる、青柳誠二というキャラクターです。

 

会社員と言っても、デキるリーダーでもなければ華やかな部署でもない。半沢直樹的な切った張ったの世界とは真逆の、どこにでも居そうな、その中でもとりわけ冴えないサラリーマン。素朴で、真面目すぎて上手く立ち回ることが出来ない、どこか残念な人。

 

 

 

青柳誠二という役は、もとい、石田作品は、カッコつけたら負けなんです。

言わずもがな、宝塚の男役はカッコつけることを極めていく芸なんですけど、こと石田作品に関して言えば、カッコつけるほど薄っぺらくなってしまう。『カッコつけないほどカッコイイ』んです。

 

これが理解出来ないと石田作品は駄作にしかなりません。けっこうハードル、高いです。(気合い、入ってますみたいに言う)

失敗した石田作品ほどつまらん物は無いし、成功した石田作品ほど胸を打つものは無い。

所謂宝塚的なものを求めている人が彼の作品を毛嫌いするのもここが要因でしょうね。

 

 

 

多分この作品は当時の珠城さんの「逃げも隠れも致しません!」という胆力があったからこそ成立したんじゃないかな。

例えばこれが息をするようにカッコ良さを振りまけるタイプの男役がやったとしたら、端的に言えば今の珠城さんが演じたとしたら、青柳さんの野暮ったさはあざとく映ったかもしれません。

 

 

かっこつけることなく、ひたむきに。

野暮ったさは誠実さに繋がり、その姿にキュンとなる。

そういう人だからこそ、本番に怖気づいて震える美波を抱きしめる様子が、渾身の告白「今夜は月が綺麗ですね」が、汗ばんだ手をスラックスの上でゴシゴシしてから差し出す姿が、優しさに満ちて愛おしく見えるんですよね。

 

 

時々石田作品には「これ宝塚でやる意味ある?」という声を耳にします。『カンパニー』もそう思う人がいるでしょう。

 

結論私は「ある」と思ってます。

 

がむしゃらにもがく姿はできれば人に見せたくない、見たくない。

 

でもやっぱり汗かいてる姿は美しいんですよ。

 

ピュアなおじさんとピュアな人達がそれをパフォーマンスで表現してくれるから「努力」も「情熱」も「仲間たち」も清々しく美しいと思えるんです。そして自身を振り返って「私ももうちょっと頑張ってみようかな」って温かな気持ちになれるんです。

 

 

 

あのおじさん、あれで少し価値観をバージョンアップしてくれたら何も言う事無いですけどね…何度あのチョビ髭毟ってやろうかと思ったことか(暴言)(やめなさい)だいたい価値観古いくせに新しいワードは取り入れたがるのも腹が立つんですよね(もうやめてあげて)(愛情です)

 

それでもなんか憎めないのは、彼が人間の本質を基本温かいものとして信じているのが作品から伝わってくるからなんですよね。

 

 

珠城さんと石田作品の相性の良さも、そこに尽きるのかなと思います。

 

 

 

《次回》併演のBADDYについて!みんな大好きBADDY!

AII for Oneのこと②

続きです。

『AII for One〜ダルタニアンと太陽王』②

 


「AII for One、One for AII」

みんなは1人のために、1人はみんなのために。

 


あまりの正しさに思わず背中がムズムズしてしまいそうなテーマ。

こういうのって下手すると夏休み子供劇場みたいになりかねないし、かと言って変に説教くさいのもシラケてしまう、案外扱うには難しい代物です。

 


しかしそこは鬼才・小池修一郎先生×珠城りょう率いる職人集団の月組、漫画チックに見せるところと人間ドラマとしてシリアスに展開するところの手綱さばきが本当にお見事!!

おかげでこちらも純粋な心に立ち戻って三銃士の活躍やダルタニアンとルイーズの恋の行方をドキドキしながら追いかけることができました。

一人の女の子を呪縛から解き放ち、広い胸に受け止めてくれる無敵のヒーロー。

そんなのみんな好きになるに決まってますよね(笑)

 


「愛しいルイーズ…この胸に迎えよう」

 


ちゃぴルイーズを想って銀橋で歌い上げる珠タニアン、かっこよかったなぁ。てかダルタニアンの時の珠城さんめちゃくちゃ胸板厚いんですよね!!!!

「この胸に迎える」とは比喩表現だと分かってはいても、どうにも物理的に飛び込んでいきたくなる広い胸でしたね。ぐへへ。

 


ラストシーン、ちゃぴルイーズの小さなお顔を両手に包み込んで、頬に伝う涙を優しく親指で拭う珠タニアン…もうね!珠城さんの親指は愛する娘の涙を拭うためにある!!!

 


…すみません落ち着きます。

待って、フィナーレもマジで最高なの。落ち着いてる場合じゃない。

 


本編では「生粋のガスコンだ!」なんて言ってる田舎者の好青年だったくせに、大階段に座って女たちを侍らす珠城さんは麝香の香りが漂うような、ムンムンした完全なオスなんですわ。

この時のお写真を卒業記念『珠城りょう特別展』のポスターにしたの、大正解!!!

 

参考画像

 

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ほんでお決まりの掛け声を「モナムール(吐息)」にしてくれてイケコほんまありがとうな…

 


『双頭の鷲』をイメージしたデュエダンもとても素敵でした。深緑色のお衣装もよくお似合いで、たまちゃぴのデュエダンではこれが一番好きだったなぁ。

愛希さんとは1学年差ということもあって、2人が遠慮なくぶつかり合って行くようなかっこいいデュエットでしたね。

 


たまちゃぴは巷では「共稼ぎのDINKS夫婦」なんて言われてましたが(笑)そんな2人が演じる冒険活劇だからこそ、それ以上の何かが生まれたのかもしれないなぁと、当時を懐かしく思い出します。

 

《次回 今夜は月が綺麗ですね》

 

どうぞお付き合いくださいませ!