『BADDY』のこと

 

珠城さん再スタートを記念して今回はこちら。

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2018年『BADDY〜悪党(ヤツ)は月からやってくる』

作・演出 上田久美子

 


【ここはピースフルプラネット地球の首都・TAKARAZUKA CITY。建国以来103年間犯罪の起きない平和な世界である。それもそのはず、この国では些細な口喧嘩も飲酒も喫煙もダメ絶対!

今日も平和に一日が終わると思われたその時、唸るような地響きが地球を襲う。月に潜伏していたはずの大悪党BADDY(珠城りょう)が、仲間を引連れ地球に上陸したのである!宇宙服を脱ぎ捨てるなりタバコをふかし、男か女か分からない恋人・スィートハート(美弥るりか)と公然とイチャつくなど、BADDYはやりたい放題。

地球の平和を守る捜査官グッディ(愛希れいか)と、彼女を慕う同ポッキー(月城かなと)は、早速彼らの取り締まりに躍起になる。

平和な世界を脅かす大悪党…。善と悪の壮大な追いかけっこが今ここに始まった】

 


はい。これ宝塚のショーの説明です。

今作は『ノバ・ボサ・ノバ』のようにショーの形式を踏襲しつつストーリー仕立てで進行する作品でありました。

この作品は上辺だけ見てもすごく面白い。おもちゃ箱から飛び出してきたようなキャラクターに荒唐無稽なストーリー、お子様人気が異様に高いのも頷けます。

 


この作品を見て「なんだか賑やかで楽しかったわ」だけで済ませられる人はある意味とても幸せな人だと思います。

BADDYはルビンの壺の如く、見る人によって全く見え方が異なる作品だと言えるでしょう。

だいたいね、BADDYが刺さるようなのはね、教室の片隅で太宰治とか読んでたタイプの人間なんですよ。私のことです。

そして珠城りょうが刺さるのもこのタイプが多いと思うんですよね。快晴よりも曇天に息がしやすくて泥水啜りながら砂噛んで人生渡ってきたタイプの人間にとって珠城りょうは眩しすぎるんですよ!!私のことだよ!!!

 

 

 

…涙が出てきそうなので話を変えましょう。

 


私、公演タイトルの冠が好きなんです。「宝塚グランドロマン ベルサイユのばら」とか「ロマントラジック 桜嵐記」とか。BADDYの冠は「ショー・テント・タカラヅカ BADDY〜悪党(ヤツ)は月からやってくる」。

ショー・テント・タカラヅカ。痺れます。アングラ演劇やサーカスを彷彿とさせる、粗暴で優雅な野趣あふれる冠です。

 


粗暴で優雅。

これぞまさに珠城さんのBADDYそのもの。

 


作品について語り出したらもうキリがないので(笑)ここではその「粗暴で優雅」をテーマに「BADDY覚醒〜ビックシアターバンク襲撃」をクローズアップしていきたいと思います!

「悪いことがしたい/いい子でいたい」

良い子の白チームと悪い子の黒チームが泥水啜ってきたオタクにグッサグサに刺さるキラーワードをこれでもかと交互に繰り返し、入り交じり、中詰めは一種のトランス状態に。そして最高潮に達した所で唐突に短い会話場面を挟みます。

 

 

 

【BADDYはグッディにうつつを抜かすうちに本来の悪の道を外れつつあることを恋人のスィートハートに指摘され、これではダメだと自分に相応しい大きな悪事はないかと考え直す。

[ビックシアターバンクを襲撃し、地球の惑星予算をそのまま奪い取る…]

思いつきに確信を得たBADDYは俺こそが宇宙一の悪党と高らかに謳い上げ、自らを奮い立たせビックシアターバンクに向かうのだった】

 

 

 

トランス状態から一度カームダウンした客席の空気をたった一人でマックスボルテージまで引き上げる珠城りょう、めちゃくちゃかっこよかった…!

まるで劇場全体が急上昇するジェット機になったみたいで、BADDYの巻き起こす大気流に耐えながら歯を食いしばって手拍子をしていました(※観劇)。

一人の人間が出すエネルギーがこんなにも場を支配することがあるのかと、飛び散る汗すら神がかって見えたものです。いやぁ、あれはすごかった。

 

 

 

場面は一転ビックシアターバンクの舞踏会へ。

正しき国の繁栄を祝う禍々しいダンスパーティー。そこへ黒燕尾を身につけ黒髪をオールバックに撫でつけながら咥えタバコで颯爽と現れる正装のBADDY!!!

 


ここの早替わり、58秒。

 


あれだけのエネルギーをぶち放っておきながらBADDY様、わずか58秒後に余裕綽々の佇まいで銀橋に再登場です。惚れないわけがない…

この時の燕尾のかっこよさを語るためにツラツラと文章を綴ってきた訳ですが、あれぞ「粗暴で優雅」珠城りょうの男らしさの真骨頂だと思います。

 


言うまでもなく黒燕尾は男役の正装です。でもことBADDYの黒燕尾に関しては男役が着るそれとは全く違う、まるでリアルな男の人が着こなすような黒燕尾なのです。

珠城さんの肉体美はもはや周知のことと思いますが、単に肩幅があるとか胸板が厚いとかそんなことじゃないんです。

実際恵まれすぎた奇跡の体型ですけど(笑)あの肉体には彼の信念みたいなものが詰まってるんじゃないかと思うんです。

 


体の奥の野蛮さを慎み深い正装スタイルに押し包み、粗暴な優雅を撒き散らしながらダンスフロアに溶け込んでゆくBADDYのなんとセクシーだったことか…ほんの1時間前まで無理矢理バーレッスンやらされてた人なのに…()

悪人は、もの哀しい。

 


いい子でいれば安全な場所で暮らしていけるのに、なぜ悪人は好き好んで激流を遡るような生き方を選ぶのか。

 


「俺はやりかけた悪事は最後まで貫くんだよ…!」

BADDYのこの言葉を聞くといつも胸が締め付けられるように熱くなります。

周りに迎合することを否定し続け、茨の道をゆく愚かなBADDY。手負いの獣のような美しいBADDY。

(ちなみにこの言葉、家族に内緒で観劇に行く朝には必ず心に刻んでいます。)

 

 

 

珠城さんってスマートじゃないのが魅力なのかなって思います。少なくとも久美子先生はそこに珠城さんの魅力を見出した人なのでしょう。

 


先日友人が「珠城さんの演じるBADDYにはどこか古い時代の銀幕スターのようなダイナミックな風格がある」と話していました。

当時のスターはスターとしての生き方を貫いていましたよね。映画のギャラを一晩で銀座のクラブに撒き散らしたとか、付き人ぶん殴って入院させたとか(笑)

「BADDY」と自分の名前が飾りつけられたジャケットを着たBADDYの後ろ姿には、ちみちみしたところを見せたくないスターの意地にも似た哀愁が漂っているんですよ。豪放磊落でありながらどうしようもなく孤独で、愚かだけど最高にカッコイイ愛すべき悪党!

私はこの作品を東京宝塚劇場で観ました。幸いチケットも複数押さえ見られる日を探して必死に追いかけました。

とても幸運だったと思いますが、出来ることならこれを宝塚大劇場で観たかった…!

武庫川のほとりのあの朗らかな娯楽の殿堂で大暴れするBADDYは、東京で観るよりもっともっと魅力的に映ったかもしれない。

 

「天国なんてバアさん達が行く場所さ」

 

サングラス姿でそう言って客席をくさすBADDYを、宝塚大劇場の常連さんはどう思ったのだろう。眉を顰めただろうか?

いいえ、きっと私が客席に居たら、誰も渡ることのできない激流に悠々と飛び込んでゆく男の、粗暴で優雅な姿に陶然と胸を熱くした事でしょう。

叶うことなら今からBADDYを知らない体(?

)になって宝塚大劇場でBADDYに出会いたいなぁ〜!!

 

《次回》似合わないって誰が言った!!!「エリザベート〜愛と死の輪舞曲」

 

どうぞお付き合いくださいませ!