『夢現無双』のこと
9月になりました。
寂しさを埋めるべくコツコツとブログを更新したいと思います。
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作・演出 齋藤吉正
【群雄割拠の戦国時代。作州宮本村の新免武蔵(たけぞう)(珠城りょう)は幼い頃から負けん気が強く、それ故に災いを招きがちな青年だった。
見かねた沢庵和尚は「己の心の弱さに打ち克って真の強さを手に入れよ」とたけぞうを放逐、名を《宮本武蔵》と改めさせ以降三年故郷への出入りを禁じた。
幼なじみのお通(美園さくら)は武蔵への淡い想いを胸に秘め、涙ながらに見送るのであった…。
武者修行の旅に出た武蔵は遂に永遠のライバル・佐々木小次郎(美弥るりか)と出会う。小次郎は武蔵の亡父・新免無二斉が唯一認めた男。冷徹な父から受けた非道な仕打ちを忘れられぬ武蔵にとって、まさに小次郎はどうしても斃さねばならぬ相手であった。
数々の名剣士との出会い、お通との浅からぬ縁、亡父の呪縛、お通と共に三人仲良く育った幼なじみ又八(月城かなと)との友情…武蔵は人と触れ合い己と向き合ううちに「真の強さ」の意味を知るようになる。
そして、最後に立ちはだかる敵・佐々木小次郎を討ち果たすべく、運命の地・巌流島へと向かうのだった。
武蔵が夢見た、夢現の彼方に待つものとは…】
あのね。あらすじ書いてるとすごいいい作品に思えてくるんですよ。
ただね、いかんせん『夢現無双』は慌ただしかった!(笑)
稀代の立役・珠城りょう、天下の妖艶・美弥るりかの2人に[宮本武蔵と佐々木小次郎]を充てるのは大正解。初々しいヒロイン美園さくらにはいじらしいお通を、これも正解。
題材の良さとキャストの嵌りっぷりがこの作品の最大のポイントですが、脚本が芳しくなかったのと強引なストーリー展開への理解が難しく、作品全体の評価は正直いまひとつでしたね。
ですがこの作品、月組ファン的に撮れ高だけは異常に高い公演だったんです!!もうね、ずっとオペラ握ってましたよ私は!だって3分に1回は見どころがあるんだもん!!
ヅカヲタがちょろいのはこういうところですよね…堪忍堪忍…。
まぁ、駄作って言われると何も言い返せないんですけど、宝塚のトップスターは駄作を妙作にするのがお仕事なので、その点で珠城さんの仕事ぶりは評価できると思います。
ヨシマサは(呼び捨て)ヒーローに対する憧れが強いんですよね。しかも宝塚ファンの多くが求める少女漫画の王子様タイプとは真逆の、男の子が憧れるド直球なヒーロー。
めっぽう強くて、無頓着で痛快で、女に振り回されないカッコ良さがあって、何故かそれが女の目には愛嬌に映るような男。
この時代にそんなこと言って憚らないのがヨシマサです。「はァ?!」ですよね、分かります。分かりますよ…。
でもここはぐっと堪えてこの時代錯誤なヒーロー像に乗っかりましょう。
兎にも角にもヨシマサが描くムンムンと漢くさーい宮本武蔵というキャラクター。ハッキリ言ってこれができるのは珠城りょうを置いて他に誰もいません。
剣豪という点ではダルタニアンと似てそうですが、ダルタニアンはピレネー山脈から吹く爽やかな風の匂いと陽だまりの優しさを兼ね備えた人。しかもあれはDINKS夫婦が演じるおとぎ話でしたので、武蔵はまた全然違うんですよね。
向こうがディズニーアニメだとしたらこちらは劇画タッチの青年漫画。
身も蓋もない言い方ですけど、なんかこう、武蔵さん見てるとウズウズするんですよね(照)。
自分の中の女が疼いてちょっとどうにかしたくなるような、でも絶対どうにかなってくれない感じの野暮な男、武蔵。
名花魁の吉野太夫にはんなりと男女の勝負の話を説かれてひとつもピンと来ない朴念仁で、お通さんの必死の懇願を心では受け止めても決して返してはくれない人。もどかしい!もどかしいよ珠城さん!!(珠城さんではない)
けどこのもどかしさが武蔵の武蔵たるところなんですよねぇ。
小茶ちゃんにまで世話を焼かれるし、そうそう、朱美ちゃんに拾った鈴をあげちゃう辺りも良かったですねぇ。すぐ寝ちゃうし、寝顔見たいのに飛び起きちゃうし。あー、武蔵さん可愛いったらもう(笑)
武蔵好きな人、みんな下総の髭武蔵が大好きじゃないですか(※私調べ)。
当然私も髭武蔵大好きです。もはやあの場面のために毎回9500円払ってた。後は全部オプションです。お得か。
いやだってよく考えてください?
どこの世に無精髭生やして手ぬぐい首からぶら下げて鍬持って畑耕してるだけであんなにかっこいい存在あります??てか、宝塚ですよ??トップスターですよ???
しかもね、それがどうにも色っぽい。
武蔵さん見てるとウズウズするって先程述べましたが、正直に申しましょう。髭武蔵さんは見てるとムラムラするんです!!!!
菩薩を彫る手も鍬を握る腕もどこかそぞろで、世捨て人みたいな顔してるくせに何か未練を残した風情がありありで。たまんないっすよね、そんな男。
思いっきり罵倒してカッとさせて押し倒されてやろうかと思うじゃないですか(引かないで)。でもきっと武蔵さんは押し倒しても何もしてくれない……そこがいいの……抱いて……(引くわ)。
閑話休題。
珠城さん好きな人って痛めつけられてる珠城さん大好きじゃないですか(※個人の感想です)。
『グランドホテル』のブログに「珠城さんは死の影が付き纏う役が似合う」と記しましたが、あの頑丈な健康体が痛めつけられる姿は嗜虐心をくすぐられるというか、傷ついた姿が逆に生命の強さを際立たせる所もあって、平たく言えばそそられる訳です。(ああ、どうしても夢幻無双の感想はこっち方面に流れてしまう…)
今ちょうどスカステでバンディート見てるんですけど、銃で撃たれて腹から血を流してるジュリアーノもこの系譜ですよね。そそるわ〜手負いの珠城りょうさん(笑)
話を武蔵にもどします。
残党狩りに追われて頭突きかまして逃げる武蔵、千年杉に縛りつけられてる武蔵、吉岡道場を訪ねてコテンパンに殴打される武蔵、撃たれた脇腹の痛みを堪えながら歩いてる武蔵…。どれも痛々しさが色っぽくてオペラで必死に見てました(笑)
やられる武蔵もいいけど、強い武蔵も魅力的。特に小雪舞う中での七十人斬りの立ち回りの場は圧巻でした。目線ひとつで相手を圧倒する殺気…!
クライマックス、巌流島の一騎打ちも手に汗握る刹那でしたね。せっかくの見せ場があっという間すぎたという声もありますが、タンゴ踊る訳にはいきませんからねぇ(それは同じヨシマサの『巌流』あれはあれでシュールでした)。
るりさん演じる小次郎もまた良くて。
小次郎は心のどこかで自分の力を封じてくれる存在を待っていたように思えたんですよね。上り詰めるのは孤独なことで、その孤独を埋めてくれるのは、やはり同じ頂を目指す者しかいない。
好敵手とは良き友であり、時に一蓮托生の恋人のようなもの…。るりたま…。
最後にこの作品のモヤモヤポイント「お通さん可哀想すぎる問題」について。
甘い言葉のひとつもなくて、しのぶ想いは全て心の声。追いかけても追いかけてもすり抜けてしまう面影をただただ涙で見送るヒロイン。これがお披露目なのに…という声もありましたね。
私はお通を可哀想なだけのヒロインとは思いません。
そりゃあ気持ちが通じ合うハッピーエンドなら誰から見たってご満足、安心して幕が降ろせるってもんです。
でもね、手に入らなければいつまでも追いかけていられるんですよ。
「消えないでおくれ、いつまでもいつまでも…」
『同じ星空の下で』サヨナラショーでも歌われたこのデュエット。不器用な武蔵とお通が同じ星を眺めながら相手を想う大好きな歌です。
珠城さんとさくらちゃんの声って重なりがとても綺麗なんですよね。
その腕に抱きとめるより、たとえ離れても心ひとつに。
「たけぞうさんっ!」
「お通、達者でなーー!!」
傍から見てたら「さっさと別の男探しなよ」って言いたくなるところですが(笑)もうあの笑顔見てたら何も言えないよね。
悔しいけど、やっぱりままにならない存在ほど狂おしく求めたくなるんですよ。
武蔵が無双の彼方に真の強さを求めるのと同じように、お通もまた見果てぬ夢を追い求める。
あの二人はよく似てるんです。
…たまさくにピッタリじゃないですか!
原作ではその辺のモヤモヤも上手いこと回収してくれているようなので、ゆっくり読み進めて脳内上演をしたいと思います。
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この公演は本当に色々な事がありました。相手役が変わって初めての大劇場公演、珠城さんにとって大切な存在であり絶大な人気を誇るスターるりさんの退団、れいこちゃんの休演、ご本人も東京公演中にトラブルでお怪我をされ、休演こそしなかったものの振付や演出の変更もあり、多くの困難をくぐり抜ける武蔵さながらの大変な公演であったと思います。
後に退団発表の記者会見で、この公演が終わる頃「背負ってきたものを少しずつ降ろしていっていいのかなと思えるようになった」と涙で頬を濡らしながら語っていらっしゃったのも記憶に新しいところ。
思い返せば東京公演の千秋楽、珠城さん珍しく声を震わせて「私達を信じて(トラブルにも動じず)見守ってくれたのが嬉しかった」と仰ったんですよね。
歴史ある劇団で興行の中心となって座を回すことのプレッシャーはいかばかりか、珠城さんにとっても、共に戦ってきたファンにとっても決して忘れられない公演のひとつとなりました。
さて、セクシー武蔵にクラクラした後は、合法なお薬でクラクラしましょう(笑)
《次回》タイってどゆこと!?「クルンテープ」のこと。長文不可避です!