『WELCOME TO TAKARAZUKA〜雪と月と花と』のこと
まんまとワクチン副反応に苦しみ、結局OAに間に合いませんでした泣
WTT、改めて見返しましたがやっぱり宝塚っていいなぁと思える作品でしたね。
【《雪月花》をテーマとする日本物レビュー。東京オリンピック開催を契機に日本の伝統的な美を世界へ向けて発信すべく、監修に人間国宝・坂東玉三郎氏を招聘した】
「あなたの夢は何ですか、みんなあなたに叶えましょ」
ウェルカム…ウェルカム…と囁くように誘われチョンパ眩しく開幕すると、のっけから珠城さんの優しい歌声でこう切り出される。もう夢見心地です。
植田先生ってこういうキャッチーなの本当に上手いですよね。
宝塚でしか見られないものって幾つもありますが、日本物のレビューこそ宝塚ならではのもの。最近では記念興行的に上演されることが多いのでなかなか巡ってこない演目でもあります。
日舞は極めて繊細な芸術で洋舞に比べ派手な動きがない分、より演者の資質が問われるもの(洋舞disりでは無いので悪しからず。洋舞は洋舞ですごい)。
とりわけ宝塚の日本物レビューにはスターの「格」といったものが不可欠で、各組の演目バランスもありましょうが、任せられる人は限られると私は思います。
その点でWTTの珠城さんは、所作の美しさや扇さばきの鮮やかさ(まるで手に吸い付いているかのよう!)もさることながら、存在そのものが素晴らしかった。
円熟期を迎えたトップスターにしか出せない
美と貫禄がそこにはありました。
一作前でも後でもなく、この時の珠城さんによくぞ日本物レビューを拵えてくださった!僥倖!!
動きの鷹揚さ、目線のひとつひとつ、せり上がりからの緩急。
世阿弥の言葉に「せぬ暇(いとま)こそ面白き」というのがあるそうですが、WTTの珠城さんはこの「暇」がとてもいいのです。
______
珠城さんの日舞を語る上で外せないのが2019年舞踊会の長唄「まつり」です。
私は日本舞踊の素養は皆無なので歌舞伎にもお詳しいフォロワーさんに色々と教えていただいたのですが、とても有名な演目なのだそうですね。
鯔背な鳶頭がほろ酔いで祭りにやってくる。
珠城さんの踊りはとても丁寧で、おそらく先生の教えをとことん踏襲されたのではないかと。
錫杖や獅子舞、お面の付け替え、手ぬぐいさばきもお手のもの、アクロバティックな飛んで跳ねては男性顔負けの力強さ。
歌舞伎ファンから見ても惚れぼれするような江戸風の色男、粋な鳶頭であったとの事でした。
大変なことを軽々とやっているように見せられるまで、どれほどのお稽古が必要なのでしょう。しかもこれをIAFAの公演中にやっていたのだから、やはりトップスターというのは凄いものです。
珠城さんの芸事に対する真摯さに改めて頭が下がると共に、組の顔として責任感もおありだったとお察しします。あーかっこいい!
話をWTTに戻しましょう。
文字通り「血のにじむような」努力に裏打ちされた、自信と風格。
珠城さんから発せられるオーラはそれでいて温かくまろやかで、ふわりと客席を見上げる花の顔(かんばせ)は優美そのものでした。
退団発表とコロナ禍の休止を経て、従来の勤勉な固さにおおらかな「遊び」の柔らかさが加わって、どの暇(いとま)を切り取っても美が漲るような、磐石なトップスターとなられた。
珠城さんは研究科13年目にしてこの境地にたどり着いたのです。ファンとしてもとても誇らしく、役者を応援する醍醐味ってこういう所にあるよなぁと改めて実感しました。
コロナ禍でチケットが取りやすかった事もあり「久しぶりに月組を見たけどすごくいいわね」という声をあちこちで耳にしました。それも嬉しかったなぁ。
私はこの公演を大劇場初日に見たのです。
プロローグで一人銀橋に歩み出る珠城さんが立ち止まって客席を見上げた瞬間、それまでややぎこちなかった劇場の空気がふっと和らいだように感じたんですよね。
2500人の、いや、劇場のみならず、演者スタッフ含め全国各地で開幕を待ちわびていた全ての人々の想いを珠城さんがその広い胸ひとつに受け止め、舞台が大きく動き始めた瞬間だったと思います。
これが組を牽引してきたトップスターの包容力なのかと、あの瞬間の感覚はちょっと忘れられません。
「月の巻」の素晴らしさはもう言わずもがなですね。あの求心力。
爪の先ほどの細い月と共に現れた、冴えざえとした表情の珠城さん…神々しかったなぁ。
やれこれと難しいことを考えてしまうのが私の、というかオタクの悪い癖なのですが(笑)、日本物レビューはあっけらかんとした賑々しさがいいですよね。古き良き宝塚の世界。
なんたって珠城さん、しゃべ化粧がとってもお似合い!元々美肌さんですが、あれだけしっかり塗りこまれても内側から輝くようなツヤが感じられるんですよね。ふっくりとした頬もまるで博多人形のような美しさでした。
日本物レビューでしか得られない、えも言われぬ幸福感。
ああ綺麗だった、寿命が伸びたと朗らかに拍子をする楽しさたるや。そんな舞台をご贔屓さんに見せてもらえる喜びたるや。
やっぱり生の舞台はいい。特に日本物レビューは生に限る。
マスクをつけて消毒をしてと、復帰直後の劇場は完全に元通りとは行きませんでしたが、それでも、月組ファンとして再開一発目がこの公演で良かったとつくづく思いました。
東京オリンピックに訪れた海外の皆様がこれを見たら何と思っただろうと詮無きことを考えてしまいますが、こんな贅沢、やっぱりまだ独り占めしていたいような気もします(笑)
宝塚の良さを再認識できる日本物レビュー、次はいつ、どの組で見られるかなぁ。続いて欲しい文化です。
次回はあの!《ピガール狂騒曲》さて何文字になるのだろうか…