スタンダードであること〜CUORE、ON THE TOWN
お久しぶりです。
いやほんと、お久しぶり。
珠城さんの小劇場公演について語ろうと思いつつあっという間に月日が流れ、気がつけば退団公演の初日からもう一年が経ってしまいました…!
言い訳はせず(笑)ファーストコンサートが終わった今、改めて珠城りょうさんの魅力について私なりに思ったことをまとめたいと思いますのでよろしくお付き合いくださいませ。
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『CUORE』素晴らしいコンサートでした。
珠城さんという人はつくづく座長が似合う!
場がしまるんですよね、珠城さんがいると。
珠城さんが真ん中にいる事で生まれる安心感、きっと他キャストのファンの皆さんも感じ取られたのではないでしょうか。
ぶれない軸、一歩踏み出す勇敢さ、誰をも包み込む慈愛の精神、そして曇りないあの笑顔!
「主役が似合う」と「座長が似合う」は同じようでちょっとニュアンスが違う。
座長が似合う主役タイプとでも言いましょうか、
つまるところ珠城さんてとてもスタンダードなんですよね。
スタンダード 『標準。規準。また、標準的であるさま(デジタル大辞泉より)』。
例えば、バーバリーのトレンチコート。
永遠のスタンダードだけが放つ揺るぎない存在感。
珠城さんの表現者としての魅力はまさにこのスタンダードな佇まいであると、宝塚を退団して真っさらになった珠城さんを見て再認識しました。宝塚時代、その真価を存分に発揮したのが2019年の『ON THE TOWN』だったのではないでしょうか。
会場が同じ東京国際フォーラムだったせいか『CUORE』で歌われていた『僕の願い(ノートルダムの鐘より)』を聴きながら私はぼんやりとゲイビーの事を考えていました。
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【アメリカ海軍の水兵ゲイビー(珠城りょう)、チップ、オジーは24時間の上陸許可で生まれて初めて大都会ニューヨークへ降り立つ。めくるめく摩天楼での夢のような時間を期待した彼らであったが、なんとゲイビーは地下鉄に貼ってあるポスター「今月のミス・サブウェイ」ことアイヴィ・スミス(美園さくら)に一目惚れ!友人達を巻き込んでアイヴィを探すべく奔走するのであったがー】
1944年初演のブロードウェイ・ミュージカル。
若い男女の恋と友情を巡る大騒動をレナード・バーンスタインの名曲に乗せて描いた作品です。
賑やかでダンスナンバーも盛り沢山のこの公演で特に私の心に残っているのは(映像化されてないのでマジで記憶頼み)、ゲイビーが夕暮れの中で寂しく歌う『孤独な街』です。
華やかな人々が行き交う大都会の片隅で、会いたい人に会えず途方に暮れる一人の水兵。
彼はアメリカ国土の大半を占めるありふれた田舎町で育ち、水兵として上陸許可を貰わなければニューヨークなど一生縁のなかったはずの青年です。高層ビルも地下鉄もミス・サブウェイも彼にとってはまるでおとぎ話のよう。
ゲイビーは宝塚の主人公としては割とつまらない男です。つまらないっていうか、あまりにも普通の人なんですよね。衣装もセーラー着たっきりだし(スケスケレスリングについてはまた別で語りたい)。
けど、そのつまらない普通の男を演じる時の珠城さんの輝きときたら!
珠城さんは人柄の温かさと体育会系の性質から陽の人と思われがちですが、私は彼女の本質的な持ち味は真逆にあると思っています。
話が前後して恐縮ですが、自分のファーストコンサートで数あるディズニー作品の中から『ノートルダムの鐘』を選ぶような人なんですよ。
本当だったらもっとヒロイックな歌を歌ってもいいものを、屋根裏に棲む醜男の心裡を歌いあげ、しかもそれがむしょうに観客の胸を打つ。
宝塚のトップスターにまで登り詰めた輝かしい人なのに、ゲイビーやカジモドのようなワンオブゼムの悲哀みたいなものがピタッと嵌る人。それが珠城りょうという役者なのです。
ワンオブゼム、いわゆる普通の人を演じてかつ主人公として成り立たせるには、やはり演じ手がどれだけ軸となってスタンダードに存在できるかだと思うのです。ちょっと話が抽象的になってきましたね。
私は高倉健さんの『新幹線大爆破』という映画がめちゃくちゃ好きなんですが、健さんが演じるのは、小さな町工場を営む時流に乗りきれない男なんですね。『幸せの黄色いハンカチ』の炭鉱夫も好きでした。
高倉健さん、女性では吉永小百合さんや天海祐希さんなんかが、私が感じる『スタンダード』を魅力とする俳優さんです。若い子だと清原果耶ちゃんとか。
(※さすがにこのビッグネームと珠城さんのお名前を並列するのは畏れ多いので、あくまで【属性】の話とご理解ください)
冷静に考えたら高倉健も吉永小百合も天海祐希も清原果耶もすぐ隣にいるはずがありません。見目麗しい燦然としたスターですから。
それでも高倉健が薄汚れたジャンパーを着て赤提灯の店からふらりと出てくる姿は容易に想像がつくし、吉永小百合が三角巾を被ってレジを打ってる姿もどこかで見たような気がするし、天海祐希が子供を電動自転車の後ろに乗せて坂道をガーガー漕いでる様は強い親しみを感じます。
ちなみにこれらの場面は完全に私のイメージで書いてます(笑)でもなんか全て絵になるし、安酒を飲む男の悲哀やレジ打ちの女の静かな暮らしや子供と少し頼りない夫を叱咤激励する妻の生活の匂いみたいなものが、伝わってくるでしょ?(強引)
「特別だけど【普通】、普通だけど【特別】。」
それこそがスタンダードな表現者の魅力であって、これはごく限られた人にしか与えられない才能のようなものだと思います。
例えば美空ひばりが何かをすると「ひばりの○○」になる。こっちはこっちで神が与えた紛れもない才能ですよね。特別オブ特別。そして、おそらく宝塚のトップスターとしてわかりやすいのはひばりタイプになるのでしょうし、その代表例が大地真央さんであり、、まぁこれ以上名前を出すのは止しておきましょう(笑)
とにかく言えるのは、珠城りょうという人は決してひばりタイプのスターではないということです。主役は主役でも毛色が違う。
高倉健や吉永小百合のみならず、私達一人ひとりも、かけがえのない特別な個です。
彼らスタンダード型スターは、ひょっとしたら私もあれくらい輝いた存在なのではないかと、自分の特別性を肯定してくれるような気がするんですよね。「映画館から出てくるとみんな高倉健になってる」みたいなアレです。
ON THE TOWNに話を戻しますと、ゲイビーはこれから軍艦に乗って一兵士として戦地に赴く若者です。
ラストシーン。めでたく心を通わせたアイヴィと再会を約束してゲイビー達3人は艦に帰っていきます。その時、彼らと入れ替わるようにして同じような若者3人が弾けるように甲板から降りてくる。希望に溢れた3人に昨日までの自分達を重ね合わせてほほ笑むゲイビー。
この場面で私は毎回涙腺崩壊してました。
誰しもが特別な存在で、今日は二度と戻らぬ大切な一日なんだと、珠城さん演じるゲイビーから私はそんなメッセージを受け取ったように思います。
ゲイビーや『カンパニー』の青柳さん。ごくありふれた人物を演じるとき、上記のような珠城さんにしかない魅力が表出するように思います。
現在放映中のドラマ『マイファミリー』で身代金を引っ張って走る東堂亜希の姿がたった数秒にも関わらず視聴者に強いインパクトを残すのも、珠城さんのスタンダードさによるものなのかもしれません。
スタンダードの良さって、ちょっと分かりにくかったりもします。特にご本人にとってはそれが魅力だと言われてもきっとピンとこないでしょう。「だって、結局普通ってことでしょ?」
おそらく珠城さんは男役では無くなった自分の「普通さ」を不安に思われたのではないでしょうか。いやいや、その普通さ、全然普通じゃないですから!!
冒頭に挙げたバーバリーのトレンチコート。
もうあれは何の過不足もない不動のスタンダードですよね。全てのものの調和を可能にし、かつ着るだけでスタイリングそのものを一段クラスアップさせてくれる力がある。
やはりスタンダードアイテムにはシンプルさの奥底に他の追随を許さない品格が備わっていているのです。
『CUORE』を見て「珠城さんに触れるとなんだか自分が『良いもの』になったような気がする。」とツイートしたのですが、これって珠城さんが事ある毎に「みんなのおかげ」と言ってくださるからなのかな?と思ってたんです。
でも本当のところは、きっと珠城さんというスタンダードな存在が自分自身の特別性みたいなものを照らしてくれるからなんだと思います。
これは観客のみならず共演者やスタッフにも言えるかもしれません。だから、珠城さんが真ん中にいる座組はいつもいい空気が流れて、各人のいい仕事が光る。
珠城さんが自ら歌いたいとリクエストしたというさだまさしさんの『いのちの理由』。
「私が産まれてきた理由(わけ)は…」と繰り返しながら森羅万象の命の尊さを歌う名曲です。この歌、珠城さんにぴったりでしたね。きっとあの時誰もが珠城さんを通じて自分の人生や大切な人に思いをいたしたのではないでしょうか。ほんでこの歌からのドリチェはあかん…!!!(涙)
Tシャツ姿で現れた珠城さんの眩しさ、美しさ。
珠城さんを囲むCUOREキャストの輝き。
会場いっぱいに光るブレスライトと、力強い手拍子。
皆が互いを認め合う幸せな空間でした。
カーテンコールで珠城さんは「自分がここに居ていいんだとみんなが思わせてくれた」と泣いていらしたそうですが、そっくりそのまま同じ言葉をお返ししたい。
「私はここに居ていいんだと珠城さんが思わせてくれるから、私は貴女が大好きなんですよ。」
宝塚退団時の特集番組の結び、私はあのナレーションが好きすぎてスマホのメモ機能に書き写して今も時々眺めているのですが(怖い)、本当にその通りだと思います。ちょっと一部抜粋しますね(何かに抵触してたら消します)
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……舞台で役を生み出すことに厳しい珠城だが普段は非常に常識人で、周りへの気遣い、組の仲間への想いは細やかで、優しさや温かさに満ちている。
組の仲間からの敬愛、スタッフからの信頼厚い珠城りょうだからこそ、多くの作品で名舞台や魅力的な役を残してきたとも言えるだろう。
「トップスターらしいトップスター」
それが珠城りょうだと感じる。
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スタンダードでオーセンティック。
それが珠城りょうさんの魅力であると私は思います。
宝塚時代にもその輝きは存分に発揮されていたと思いますが、この魅力は今後の俳優・珠城りょうさんにこそ大きな強みになるのではないでしょうか。
本人には理解しにくい武器かもしれませんが、きっとこの先は珠城さんが自分らしさを活かせるような環境になると思うし、何も不安に思わずにご自分を大切にしてのびのびと活動してほしいと願っています。
きっとみんな、貴女を好きになるはずだから。
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長文にお付き合いいただきありがとうございました。
『8人の女たち』までの期間ブログを書くことでたまロスを凌ごうと思いますので、再びよろしくお願いします。次は何を書こうかな…。